企業や団体といった組織が契約書などの書類に押印するいわゆる“法人用印鑑”です。
いくつか種類があるなかで、特に重要なのが「丸印」と呼ばれる代表者印(法人実印)です。一方でよく使用する法人用印鑑に「角印」があります。
ここでは丸印と角印の違いに触れながら、さらに使い方のポイントや丸印を作る時の素材選びや文字の入れ方などについて解説します。
丸印と角印の違い
はんこ(判子)本体の正式名称を「印章」と呼び、はんこに朱肉をつけて書類など紙に押した際、朱肉が残ったあとを「印影」と呼びます。正確に表現するとこの印影が「印鑑」になります。
江戸時代には版画で絵や文字を刷るようになりますが、そのことを版行・板行と呼んでいるうちに「はんこう」から「はんこ」になったという説があります。役所や銀行では以前から「鑑(かがみ)」に登録されたものだけが本物の「はんこ」とされ、はんこを押した「印影」を「鑑」と照合してチェックしました。そこからはんこのことを「印鑑」と呼ぶようになったと言われます。
大きく分ければ、印影が丸いのは「丸印」で印影が四角だと「角印」になります。
丸印とは?
丸印は会社の実印として使われることが多く、その場合は「代表社印」「法人実印」「会社実印」などと呼ばれます。代表者印とは会社を設立するにあたり法務局に登記した非常に重要な印鑑で、法的な拘束力を持つ法人実印となります。
そのため会社銀行印などにも、印影が丸い印鑑を使いますがその場合は「丸印」とはあまり呼びません。
また企業によっては代表者印以外で丸印を使うケースもあるようですが、一般的に「丸印」と言えば代表者印(会社の実印)を指します。
角印とは?
印影が四角いことから「角印」と呼ばれるもので、法務局や役場、銀行などに届けることなく主に会社の認印(社印)として使われます。丸印は法人代表者の権利・義務を立証する印鑑として物品購入や委託業務など重要な契約、不動産登記などで使われるのに対して、角印は会社が発行する領収書、請求書、納品書、発注書など幅広い場面で使われます。認印として使う角印をスタンプタイプの浸透印で作るケースもあります。
丸印と角印の押し方
丸印と角印は兼用できる?
丸印を代表社印・法人実印、角印を会社認印として使う場合は、それぞれで使い方や押印の位置などが違います。丸印は法務局によって登録可能な印鑑を「直径10mm以上30mm以内の正方形に収まる」サイズと定められており、印面のサイズは18mmで作るのが一般的です。対して角印はサイズの規定はありませんが、一般的に印面のサイズは24mmで作られます。
丸と四角という形状だけでなくサイズも変えて作るのは役割が明確に違うからです。たとえば法人実印として法務局に登記した丸印を認印として使い、逆に認印として使う角印を法人実印として登記することも理論上は可能ですが、兼用は避けるべきでしょう。認印としてさまざまな書類に使われている印影が複製されて、法人実印として悪用される危険性が高くなってしまうからです。
押し方のポイント
書類に押印する時は、まず印影が綺麗になるように十分配慮しましょう。ちなみに記名せず印鑑だけ押すことや、あらかじめ印刷された名前の横に印鑑を押すことを「押印」と呼ぶのに対して、「署名ご捺印ください」と求められた時などに自筆で記名して印鑑を押すことは「捺印」と呼びます。本人の署名がある捺印の方が法的な効力は高いといわれます。
綺麗な印影を残すには、印鑑を押す際の要領をつかむことです。朱肉がつきすぎないように気をつけて、印鑑をこすりつけずに軽く叩く感じでのせる程度にしてつけます。朱肉をつけすぎると印影が滲んでしまいかねません。印鑑を書類に押す時は、ずれないように水平に押しつけて力が均等に加わるよう適度に重心を変えます。捺印マットを使うと効果的ですが、ない時は新聞紙や雑誌などを敷いて代用しましょう。
押し方の違い
丸印(代表者印・法人実印)の場合は書類に記載された(あるいは記名した)会社名や代表者名の右横に、文字と重ならないように印鑑を押します。なお自筆で記名する時は一般的に会社名の下に代表者名を書きます。印鑑の上下を間違わないよう気をつけて、かすれないように押しましょう。
角印(認印)は会社名や代表者名の右横に最後の1文字に重なるように押します。角印は認印としてさまざまな場面で使うため印影を複製されるリスクがあるので、文字に重ねることにより文書の複製を防ぐことが狙いです。重ならないように押す丸印とは違うので注意が必要です。
また書類によって丸印と角印を両方押すよう求められる場合があります。先方にどのような書類のどの部分に必要なのかを具体的に確認するとともに、丸印(代表者印・法人実印)の使用については会社の方針もあるので上司に判断を仰ぎましょう。
他にもある印鑑の押し方
「契印」と呼ばれる押し方のように、契約によっては書類にまたがって印鑑を押すケースもあります。複数枚の契約書がある場合に、それが連続したものであることを証明するのが「契印」で、ページの綴じ目にまたがって押すことで書類の偽造や改ざんを防ぐ効果も期待できます。
契印と似ているのが「割印」です。複数の書類が同じ内容であることを証明するため、たとえば原本と写しをずらして重ね、その部分を印鑑で被せるように押印します。原本と写しを合わせたらもとの印影になるため同一性を証明することができます。
また「消印」と聞けば郵便物の切手などに押してあるスタンプが思い浮かびますが、会社で使う領収書に収入印紙を貼る時にも消印を押します。消印は切手や収入印紙が使用済みであることを証明するものです。
「訂正印」は書類に記載した内容を訂正する時に押す印鑑で、訂正したのが書類を作成した本人に間違いないことを証明する意味があります。訂正印は作製した書類と同じ印鑑でなければいけません。
丸印のサイズ・印材(素材)
会社設立にあたり法務局に登記する印鑑については、商業登記規則で「印鑑の大きさは、辺の長さが一センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが三センチメートルの正方形に収まらないものであつてはならない」「印鑑は、照合に適するものでなければならない」と定められています(商業登記規則「印鑑の提出等」第九条・3・4)。
丸印(代表者印・法人実印)は印鑑が「1cm以上3cm以内の正方形に収まるもの」でなおかつ「照合に適する」ものでなければなりません。作る時のサイズ(直径)は18mmが一般的です。また「照合に適する」ためには印影がはっきりしており、変化しないことが必要です。ゴム印などは使用しているうちに微妙に印影が変わる可能性があるため、適さないと判断されて登録できません。
では丸印を作るにはどのような印材(素材)が適しているのでしょうか。
本象牙
象牙は印材のなかでも最高級品とされ「はんこの王様」の異名を持つほどです。それは、印鑑本体の見た目や手にした時の「高級感」、末永く使用できる「耐久性」、朱肉のつきがよくて綺麗な印影を残す「捺印性」の高さを兼ね備えていることによります。
部位によってランクが分かれ、目が粗い部位からとれた印材は普及品として多く出回りますが、芯に近くなり目が落ち着いた「本象牙」と呼ばれる部位から高級感が増してきます。
黒水牛
黒い印鑑の素材は多くが黒水牛になります。水牛の角を加工して着色したものもありますが、高級な印材になるほど中心の「芯持(しんもち)」と呼ばれる部位を使うので少量しかとれません。
朱肉に馴染みやすいので綺麗な印影を捺すことができ、黒光りした美しさがあって耐久性にも優れているので丸印(代表者印・法人実印)に適しており、本象牙に比べてリーズナブルなのがメリットといえるでしょう。
本柘、柘(アカネ)
柘には「本柘(ほんつげ)・薩摩本柘(さつまほんつげ)」と呼ばれる鹿児島県産のものと、主に東南アジア方面から輸入されたアカネ科の木を印材にした「柘(アカネ)」があります。見た目はあまり変わらないものの、本柘・薩摩本柘は繊維が詰まってキメ細かいのが特徴です。
チタン
レアメタル(希少金属)として知られるチタンも最近は印材として注目されています。印材に使われる純チタンは粒子が超微粒なため朱肉のノリがよくて美しい印影を残す「捺印性」の高さがあり、ジェット機の素材にも使われるほど耐久性に優れています。
水洗いができることや、人工関節や心臓ペースメーカーなど医療の分野でも活躍するように人に優しい金属なので金属アレルギーが起きにくいことも特徴です。個人印鑑だけでなく丸印(代表者印・法人実印)の印材として人気が高まっています。
丸印に入れる文字
書体
印鑑用の書体には「篆書体(てんしょたい)」、「古印体(こいんたい)」、「印相体(いんそうたい)」などがありますが、法人用印鑑を作る時は「篆書体」を使うのが一般的です。
篆書体
印相体
古印体
刻印の内容
丸印(代表者印・法人実印)の印影は二重の円になっており、外側の円の中には「会社名」や「屋号」、内側の円の中には「代表取締役印」などの役職名を彫るのが一般的です。
内側の円に入れる内容は法人の種類によって違い、たとえば株式会社の場合は「代表取締役印」、合名会社・合資会社だと「代表者印」、特定非営利活動法人(NPO法人)・農業協同組合・労働組合などは「理事之印」や「代表理事之印」、宗教法人は「代表役員」といった内容を彫ることが多いようです。
まとめ
以上、法人用印鑑における丸印と角印の違いに触れながら、丸印を代表者印・法人実印として使う場合の役割や押し方などについて解説しました。皆さんが会社設立に向けて法人用印鑑を準備する時、実際に丸印や角印を使う時の参考になれば幸いです。