会社設立に必要な印鑑届出書とは?

会社を設立する際に、登記申請と一緒に提出するのが印鑑届出書です。以前は商業登記法により、法務局へ印鑑を登録することが義務となっていたため、会社の登記申請と合わせて印鑑の届出をするのが一般的な流れでした。令和3年よりオンラインでの申請の場合は印鑑の登録が義務から任意に変更されましたが、社会的なシステムの変革が進んでおらず、会社の対外的な業務をスムーズに進めるためには印鑑の登録が欠かせません。この記事では、会社設立に必要な印鑑届出書について詳しく解説していきます。

印鑑届出書とは

まずは印鑑届出書の概要について解説します。

法務局へ印鑑を登録する

印鑑届出書とは、会社で最も重要度の高い「代表者印」と呼ばれる法人印鑑を、法人が所在する地域を管轄する法務局へ登録するための書類です。個人が実印を自治体に登録するイメージと同一で、法人の実印の場合は法務局へ登録することが定められています。また、法人印鑑を法務局へ登録すると、登録した印鑑の印鑑証明書を発行できるようになります。登録する「代表者印」について、法人の代表者が複数いる場合でも、登録するのは1つの代表者印だけで問題ありません。ただし、複数の代表者分の印鑑を登録する場合は、代表者ごとにそれぞれ異なる印鑑を届け出る必要があります。

法人印鑑の種類

法人印鑑には複数の種類があり、用途に応じた使い分けがされています。法人印鑑において、最も重要度の高い印鑑が「代表者印」です。法人の実印としての位置づけであり、重要な契約や金融取引の契約などで使用されます。他には銀行口座開設などに使用する銀行印、見積書や領収書に押印するための会社印(角印)、郵便物の受け取りなどに利用する会社認印、会社の住所を連続で記載する際に手間がかからないように作成するゴム印があります。法務局へ登録するのは、最も重要度の高い「代表者印」です。

印鑑届出書と印鑑証明書

法人の代表者印を押印した印鑑届出書を法務局に提出する目的は、自社の代表者印を実印として登録し、印鑑証明書を発行できるようにすることです。印鑑証明書は、契約書などへの押印が正式なものであることを証明するものです。会社同士の取引契約、資金の借入などについての契約、不動産取引の契約を締結する際に、法人の代表者の意思・決定が確かであることを証明するために、印鑑証明書の提出を求められるケースがあります。印鑑証明書を取得する手続きを簡単にするために、印鑑届出書を提出する際は、印鑑カードの交付申請書も一緒に提出すると良いでしょう。

印鑑届出書の提出が必要になるケース

印鑑届出書の提出が必要になる4つのケースを確認しておきましょう。基本的には会社の登記や登記情報の変更とあわせて届出書を提出します。

会社を設立するとき

1つ目のケースは、会社を設立するときです。商業登記法によって、会社の登記手続きをおこなう際は、法人の実印として使用する印鑑を届けることが義務となっているからです。登録することで印鑑証明書が発行されますので、届出をする印鑑は、法人の実印である代表者印を採用します。厳密には他の法人印鑑を登録することも可能ですが、偽造や不正使用のリスクに晒される恐れもありますので、基本的には法人の代表者印を印鑑届出書に押印して提出します。また、令和3年2月15日からオンラインで会社の登記申請をする際は、印鑑届出書の提出が任意となりましたので、登録する義務が撤廃されたことになります。ただし、窓口や郵送での手続きについては、引き続き印鑑届出書の提出が義務になっています。オンライン申請時の届出が任意になったとしても、印鑑証明を求められるケースは多々ありますので、後々必要になることは間違いありません。オンライン申請なら登記と同じタイミングでなくても問題ありませんが、追って届出の手続きをおこなうようにしましょう。

印鑑を変更するとき

2つ目のケースは、届出をしている印鑑を変更するときです。具体的には、会社の代表が退任し新たな代表が就任するとき、届出をしている法人の代表者印を紛失したとき、届出をしている法人の代表者印が破損したときなどです。いずれのケースでも「改印」の手続きをおこなうことになります。新しい法人の実印、代表者個人の実印、個人の実印の印鑑証明を用意し、法人住所を管轄している法務局で改印の手続きを実施します。印鑑届出書と改印届出書は同一の書類になっていますので、会社を設立するときと同様の手続きで改印を進めます。

本社を移転するとき

3つ目のケースは、本社を移転するときです。厳密に言うと、移転前の住所を管轄する法務局の管轄区域を出た際に手続きが必要になります。本社の移転先の住所を管轄する法務局で新たに印鑑届出の手続きをしなくてはなりません。ただし、移転先で届出書を提出する際は、代表者個人の実印や印鑑証明は必要ありません。登録情報に変更はありませんので、届出書には代表者印の押印と個人の認印の押印のみで手続きは完了します。それでも、代表の変更と本社の移動が同時に実施されるときは、代表者の登録情報が変わりますので、新代表者個人の実印と印鑑証明は必要になります。

会社を清算するとき

4つ目のケースは、会社の清算をするときです。理由としては、会社の清算をする際は会社の代表を清算人が務めることになるからです。通常、届出をする代表者印はそれまで使用してきた代表者印を、届出者を清算人に変更して印鑑届出書を解散登記と同じタイミングで提出します。

印鑑届出書の書き方

印鑑届出書の書き方を解説します。印鑑届出書はこちらからも閲覧できます。

左上の押印欄

届出書の左上に大きく枠線で囲われた記入欄がありますが、こちらに届出をおこなう法人の代表者印を押印します。押印された印影がそのまま登録されますから、鮮明な印影が残るよう丁寧に押印しましょう。ちなみに登録できる代表者印のサイズは、一辺が1cmを超え3cm以内に収まるものでなくてはなりません。代表者印の作成を専門業者に依頼する際は規定サイズから外れないよう注意しましょう。

印鑑提出者

届出書の右上は会社情報と代表者情報を記入する欄です。会社の商号及び事務所の住所を記入し、代表者の該当する役職を選択、代表者情報を記入します。会社を新しく設立する際は、法人番号は付与されておりませんので空欄のままで問題ありません。また、会社の新設時は印鑑カードもありませんので、「印鑑カードは引き継がない」にチェックを入れます。本店移転などの場合で印鑑カードを引き継ぐ場合は、印鑑カード番号と前任者情報を記入します。

届出人情報と右下の押印欄

最後に届出人情報を記入し、右下の押印欄に届出人個人の実印を押印します。届出人の欄の「印鑑提出者本人」にチェックを入れます。

代理人が届出をする場合

届出人を代理人が務める場合は、届出人の欄の「代理人」にチェックを入れ、代理人の本人情報を記入し、代理人の認印を押印します。委任者の情報については、用紙下部の「委任状」の欄に記入をします。委任者の押印欄には委任者の実印の押印が必要ですので注意しましょう。

法人が代表社印の場合

合同会社など法人が会社の代表を務める場合、印鑑提出者の氏名の欄に代表法人の住所と商号、氏名を記入します。届出人の住所には代表法人の住所、役職名と氏名を記入し、代表法人の代表者印を押印します。

印鑑証明書の援用ができる

会社の登記には取締役全員の印鑑証明の提出が必要ですが、印鑑届出書の提出にも添付するとなると提出資料が重複してしまいます。届出書の欄外のところに記載のある「・・・登記申請書に添付のものを援用する」にチェックを入れることで、取締役個人の印鑑証明の提出を一度で済ますことが可能になります。

印鑑届出書のオンライン申請

印鑑届出書はオンラインでも手続きをすることができます。

オンライン申請のメリット

オンラインで届出の申請をするメリットとしては、法務局に行かなくても手続きができることです。従来の法律では直接法務局に行くか郵送での手続きがおこなわれていましたが、法務局は開館時間が限られていますし、郵送ですと資料に不備がある場合に時間がかかってしまいます。コロナの影響で対面での手続きが避けられる傾向もありますので、直接訪問せず時間もかからないオンライン申請の需要は高まりつつあります。

オンラインでの申請方法

印鑑届出書のオンライン申請の方法は以下の3ステップで完了します。

  • 印鑑届出書の作成・・・法務省のHPより印鑑届出書をダウンロード・印刷します。
  • 電子証明書の付与・・・法人の代表者印で押印した届出書をPDFにし、電子証明書を取得します。
  • オンライン申請・・・「登記ねっと」より登記申請書類と共に届出書を添付し申請します。

オンライン申請の注意点

最後にオンライン申請をする際の注意点を確認しておきましょう。

登記と一緒に行う

印鑑届出書のオンライン申請は、オンライン登記の申請が前提とされています。オンライン登記と同じタイミング、もしくはオンライン登記が完了したタイミングで印鑑届出書の申請をおこなう必要があるので注意してください。

申請前に準備が必要

オンライン申請をおこなうためには、システムへの登録や電子証明書の取得が必要になります。ネットでの作業に苦手意識があると面倒に感じてしまうかもしれません。「登記ねっと」にはサポートデスクが設置されていますので、電話やメールで確認しながら手続きを進めていきましょう。

まとめ

会社設立に必要な印鑑届出書について解説しました。オンライン申請の開始で届出が必要ないケースが出てきておりますが、印鑑証明書が求められる取引が多く存在するため、届出を避けることまではできないでしょう。本記事を参考に、印鑑届出の手続きを進めてみてください。

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