「法人で使う印鑑について知りたい」という人もいるでしょう。法人で使用する印鑑にはさまざまなものがあり、それぞれ用途も異なります。
中でも代表者印は重要な印鑑なので、法人で使う印鑑の中でも特に覚えておくべきです。
今回は、代表者印を中心に法人で使う印鑑について紹介します。印に関する言葉の意味も解説しているので、ぜひ参考にしてください。
法人で使う印鑑の種類
法人で使う印鑑の種類は、次のとおりです。
- 重要な場面で使用する代表者印
- 金銭的な取引に使用する銀行印
- 社内文書から社外文書まで用いられる角印
- 日常的な使用に適した会社認印
- 会社情報の記入を省けるゴム印
それぞれ詳しく解説します。
重要な場面で使用する代表者印
代表者印は、法人で使う印鑑の中でも重要な場面で使用するのが特徴です。例えば、公的機関での手続きや契約書の作成といった場面で使用します。特に大切な印鑑なので、紛失や盗難などが起こらないよう厳重に管理しなければいけません。
また、代表者印は丸形で印面が二重円の形状です。内枠には役職名が刻印され、外枠には会社名が刻まれます。法人登録の際には法務局に届け出る印鑑でもあり、法人実印や会社実印と呼ばれることも少なくありません。
金銭的な取引に使用する銀行印
銀行印は、金銭的な取引に使用する印鑑です。具体的には、預金の引き出しや融資の手続きはもちろん、手形の発行などお金に関わる重要度の高い取引に使用される傾向にあります。法人の銀行口座を開設する際に金融機関へ届け出る印鑑でもあり、法人銀行印や会社銀行印とも呼ばれます。
また丸形のデザインで、印面の内側に「銀行之印」、外枠には会社名が刻まれるのも特徴です。金銭的な取引に使用されるため、紛失などの盗難がないよう厳重に管理する必要があります。
代表者印は銀行印としても使用できるので、銀行印を使わずに代表印だけで取引することも可能です。しかし、紛失すると重要な取引や金銭的な取引ができなくなるので、それぞれ作成して使い分けるのが安全といえます。
社内文書から社外文書まで用いられる角印
角印は、社内文書から社外文書まで用いられる印鑑であり認印の一種です。例えば、社外文書では請求書や見積書、社内文書では通知書類などに用いられます。名前のとおり四角形の形をしており、印面には会社名のみが刻まれているのが特徴です。
会社角印や会社印、社印など呼び名が多いのも角印の特色といえます。社外文書や社内文書の両方で使用する機会が多いため、紛失などが起こらないよう厳重な管理が必要です。
日常的な使用に適した会社認印
会社認印は、日常的な使用に適した認印です。具体的な使用シーンとしては、書留や郵便物の受け取りはもちろん、重要度の低い書類への押印などが挙げられます。法務局や金融機関への届け出が不要で、インク浸透印などの三文判でも効果を発揮します。
丸形で社名や代表者名などが刻印されるのも特徴です。
会社情報の記入を省けるゴム印
ゴム印は、会社情報の記入を省く効果がある認印です。封筒や書類に押印するだけで会社情報の記入を省けるため、持っているだけでも作業効率の向上が期待できます。会社情報を記載する機会が多い企業であるほど、作成するべき印鑑といえるでしょう。
また、形状は長方形で、会社名や郵便番号、住所などが印面に刻印されているのが特徴です。印面に刻印される内容から、住所印とも呼ばれています。
どのような印鑑でも法的効力に違いはない
法人で使う印鑑にはさまざまな種類がありますが、どのような印鑑でも法的効力に違いはありません。契約書に対して代表者印と認印を押した場合でも、それぞれの効力自体は変わらないのです。
しかし、代表印には法務局で印鑑登録されている特徴があります。そのため、訴訟などが起こったときに「会社の合意の上で契約を締結した」と証明できるのが利点です。法的効力に違いがないとはいえ、万が一に備えて重要な手続きには代表者印を使うべきといえます。
代表者印を印鑑登録する方法
代表者印を印鑑登録する際に知っておきたいポイントは、次のとおりです。
1.印鑑届書に必要な事項を記載する
2.印鑑届書を法務局に提出する
3.印鑑カードの交付申請を行う
オンラインの登記申請では印鑑の届出は任意
それぞれ詳しく解説します。
1.印鑑届書に必要な事項を記載する
印鑑届書を準備した上で、必要な事項を記載します。印鑑届書を記入する際に必要なものは、以下を参考にしてください。
- 登録する代表者印
- 印鑑を提出する本人の実印
- 印鑑を提出する本人の発行後3カ月以内の印鑑証明書
記入する主な内容は、以下のとおりです。
届出印に関する情報
- 主な事務所
- 届出印の印影
- 会社の商号や名称
- 印鑑提出者の氏名や生年月日などの情報
- 届出人の氏名や住所などの情報
また、代理人が印鑑を提出する際は、委任状の欄に下記の情報を記入します。
- 権限委任の年月日
- 代理人の氏名や住所などの情報
- 印鑑提出者の氏名や生年月日などの情報
- 印鑑提出者の実印
事前に上記の情報をメモしておくと、必要事項の記入がスムーズに進みます。
2.印鑑届書を法務局に提出する
印鑑届書に必要事項を記入後、印鑑届書を印鑑提出者本人の印鑑証明書と一緒に法務局へ提出します。具体的な提出先は、会社の本店や事業所エリアを管轄する法務局です。管轄の法務局が分からないときは、法務局のホームページから確認しましょう。
印鑑届書と印鑑証明書の提出が受理され次第、印鑑登録の手続きが終了します。
3.印鑑カードの交付申請を行う
印鑑登録が終了した後、印鑑カードの交付申請を行います。印鑑カードは印鑑証明書を発行する際に必須であり、取引によっては実印と印鑑証明書の両方を提出しなければいけません。
印鑑登録と印鑑カードの交付申請は、必ずしも一緒に行う必要はありません。しかし、印鑑カードの交付申請書は印鑑届出書の項目とほとんど一緒なので、同時に進めたほうがスムーズです。
オンラインの登記申請では印鑑の届出は任意
オンラインで登記申請する際、印鑑の届出は任意になります。しかし、土地を取得するときや金融機関で融資を受けるときなど、重要な取引においては印鑑証明書の提出が必要になることがあります。
重要な場面でもスムーズに対応できるよう、オンラインで登記申請した場合でも念のため印鑑登録するのがベストです。オンラインで登記申請した場合は、印鑑登録もオンラインで申請できます。
代表者印を作成する際の注意点
代表者印を作成する際の注意点は、次のとおりです。
- 代表印は法人登記にも必要
- 代表者印のサイズは決められている
- 耐久性に優れた素材を選ぶ
- 読みやすくシンプルすぎない書体を選ぶ
それぞれ詳しく解説します。
代表印は法人登記にも必要
代表印は、法人登記にも必要です。法人の代表者印の登録は、印鑑届書を法務局に提出すると同時に、法人登記の際にまとめて行われるためです。
また、代表印には会社の正式な意思決定を表す効果があります。他の実印とは一緒にせず、誰でも取り出せないような場所に保管するのがベストです。
代表者印のサイズは決められている
代表印のサイズには決まりがあります。具体的には、1cm以上3cm以内の正方形に収まるものでなければ認められません。
規定のサイズに該当しない印鑑は、会社の実印としては登録できないので注意しましょう。作成依頼をする際に、「代表者印を作る」と伝えておくとサイズ規定のミスを防げます。
一方で、代表者印の形状には規定が設けられていません。しかし、二重丸で作成するのが一般的です。また、二重丸の外側は「回文」、内側は「中文」と呼ばれます。回文に会社名を刻印し、中文に代表者の役職を入れるのが基本的な作り方です。
耐久性に優れた素材を選ぶ
代表者印は一度作ったら長く使い続ける印鑑なので、耐久性に優れた素材で作りましょう。耐久性に優れた素材として知られているのは、主に以下のものです。
- 象牙
- チタン
- オランダ水牛
- 黒水牛
また、上記の素材には耐久性以外の特徴があります。
素材 | 特徴 |
象牙 | “印鑑(はんこ)の王様”とも呼ばれるほど、「はんこ」の中では最高級の素材と言っても過言ではない印材です。高い耐久性、重量感、光沢があり、朱肉とよく馴染みますので、使うほどに愛着がわく事でしょう。 |
チタン | 高耐久で、半永久的に使える丈夫な印鑑。朱肉のなじみが良くシャープで美しい印影が押印できる。 |
オランダ水牛 | 水牛の中でも特に硬質で粘りがあり、より優れた印材として知られている 印材です。 |
黒水牛 | オランダ水牛同様、水牛の角を加工した印材で丈夫で長期の使用に耐えられる印材です。 |
長く使い続ける代表者印なので、耐久性だけでなく見た目や捺印性などにもこだわりましょう。
読みやすくシンプルすぎない書体を選ぶ
代表者印を作成する際は、読みやすくてシンプルすぎない書体を選びましょう。代表者印の書体に規定はないものの、読みづらい書体だと判別しにくくなってしまいます。シンプルすぎる印面でも、偽造のリスクが高まるので注意が必要です。
代表者印として使用されやすいのは、以下の書体です。
書体 | 特徴 |
篆書体(てんしょたい) | 可読性が低く偽造されにくい |
印相体(いんそうたい) | 文字と枠が接する部分が多く欠けにくい |
古印体(こいんたい) | 可読性が非常に高いため認印向き |
中でも代表者印の書体として人気なのは、篆書体です。可読性が低く偽造されにくいため、代表者印のような重要な印鑑によく採用されます。読みにくさが気になる人は、古印体を選ぶ手もあるでしょう。
また、同じ書体でも漢字やカタカナなどの文字の種類や画数、文字数によって印鑑の見え方は変わります。社名に合わせ、適切な書体を選びましょう。
印に関する言葉の意味
印に関する言葉は、次のとおりです。
- 押印
- 捺印
- 割印
- 契印
- 捨印
- 消印
それぞれ詳しく解説します。
押印
押印とは、記名押印を略した言葉です。自筆以外の方法で名前が記された文書に対し、印鑑を押す行為を指します。印鑑を押して印影を付ける行為自体を押印と呼ぶケースも珍しくありません。
捺印
捺印とは、署名捺印を略した言葉です。自筆で名前を記しつつ、印鑑を押す行為を指します。押印と混同されがちな言葉ですが、署名の有無がそれぞれの主な違いです。
割印
割印とは、2枚以上の文書に対してまたがるように印鑑を押す行為です。契約書で行われやすい押印方法であり、文書間の同一性や関連性を証明しつつ、改ざんを防止する効果があります。
契印
契印とは、2ページ以上の契約書に対して両ページの見開き部分をまたがるように印鑑を押す行為です。文書の連続性を示すとともに、ページを改ざんしたり、抜き取りや差し替えをしたりするのを防止する効果があります。
割印と似ている言葉ですが、割印は連続性のない2枚以上の文書にまたがって印鑑を押します。対して契印は、連続性のある2ページ以上の契約書に印鑑を押すのが大きな違いです。
捨印
捨印とは、訂正箇所の発見に備え、文書の余白部分に前もって印鑑を押す行為です。捨印を残すことで、文書内に訂正箇所があったときに訂正印として利用できます。捨印がある文書は、本人以外の代理人による訂正も可能です。
捨印によって文書を訂正する際は、訂正する文字を二重線で消してから正しい文字に書き換えます。そして、捨印の近くに削除・追加した文字数を記入することで訂正が完了します。
しかし、捨印は本人以外による想定しない文書の訂正が起きかねないのが欠点です。捨印を押す際は十分に注意しましょう。
消印
消印とは、文書に貼り付けられた切手や収入印紙と書面をまたがるように印鑑を押す行為です。切手や収入印紙が使用済みだと表すことができ、再利用を防ぐ効果があります。
また、印鑑を押さずにボールペンなどで署名することでも、消印としての効果を発揮します。
まとめ
今回は、法人で使う印鑑の種類について解説しました。法人で使う印鑑には、代表者印や銀行印、角印などさまざまなものがあります。中でも代表印は重要な場面で使用される印鑑なので、法人で使う印鑑の中でも特に大切です。
万が一の紛失や盗難などのトラブルに備え、他の印鑑とは違う場所に保管したり、誰でも取り出せないような鍵付きの場所に保管したりするのがベストです。
また、代表印は法人登録に必要だったりサイズに規定があったりと、いくつかの注意点があります。長く使う印鑑なので、耐久性のある素材で作る必要もあるでしょう。愛着を持って長く使えるよう、耐久性を持ちつつ見た目や捺印のしやすさに優れた素材を選んでみてください。